プラットフォームビジネスにおける利用規約の問題点と実務上の留意点‐NBLの特集記事を踏まえて‐

1 はじめに‐NBLの特集記事

先日、適格消費者団体からの差止訴訟にて利用規約の消費者契約法違反が認められた東京高裁令和2年11月5日判決をご紹介しました。

商事法務発刊のNBL2020年12月15日号に、この判決についての特集記事が組まれていました[1]。改正民法(定型約款)、消費者法実務、プラットフォーム運営者等、様々な視点・切り口で判決の意義や実務上の留意点が解説されており、非常に参考になりました[2]

この特集記事を踏まえ、個人的に特に重要あるいは印象的と思った点をまとめておきます。

2 明確さ・平易さの重要性

事業者サイドとしては、一部の不正あるいは不適切な行為を行うユーザーに対して迅速かつ厳しい処置をとるために、規定上は抽象的・不明確な文言にしてできる限り事業者の裁量を広く認めておきたいところです。

しかし、抽象性・不明確性が高まるほど、当然ですが、ユーザーにとっては予測可能性が低くなり、事業者の恣意的な判断により会員資格停止等の不利益処分を受けるリスクが高まります。

本判決も、「事業者を救済する(不当条項性を否定する)との方向で、消費者契約の条項に文言を補い限定解釈をするということは・・・極力控えるのが相当である」としています。

本件で問題となったのは、次の各号に該当する場合に、サービス利用禁止や会員資格の取消が可能となり、また株式会社ディー・エヌ・エーは一切損害賠償義務を負わないという7条の規定です。

7条(モバゲー会員規約の違反等について)
1項 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合,当社は,当社の定める期間,本サービスの利用を認めないこと,又は,モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし,この場合も当社が受領した料金を返還しません。
(中略)     
  c 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が(合理的に)判断した場合
(中略)
  e その他,モバゲー会員として不適切であると当社が(合理的に)判断した場合

3項 当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても,当社は,一切損害を賠償しません。
※「合理的に」の部分は原判決後に追加

不利益処分の対象となり得る不適切あるいは不正な行為については、できる限り例示しておき、ユーザーの予測可能性を高める工夫が求められるといえるでしょう。

上記特集でも、「利用規約のうち不明確・平易でない規定は、ユーザに有利に解釈されることはあっても、事業者に有利に解釈される可能性は低い」と述べられています[3]

また、以下のように述べられており、ユーザーの予測可能性を高める努力や工夫が求められることになります。

「事業者としては、利用者の権利が制限される場合について、たとえば、サービス利用制限に関する事業者の基本的なポリシーや基準設定の方針(具体的に制限する行為の例示と共に、なぜそれを制限するかの考え方)を明確にすることによって、利用者の理解度や予測可能性を高めることができるのではないか」[4]

3 運用面の重要性

本判決は、モバゲーサイト上のゲームの一部について利用停止措置をとる際にモバゲー会員から理由の問合わせを受けても説明をせず、支払済の利用料金2万円の返金を拒んでいるとの相談がモバゲー会員から消費生活センターになされていること、会員資格取消措置等の判断根拠について会員に通知または説明をしていないことを述べています。

つまり、規約の文言だけでなく、実際の運用実態から、恣意的な不利益処分を行うのではないかという懸念が相当程度あると裁判所は考えたものと思われます。

悪質ユーザーだからといって雑な扱いをすることは許されず、なぜ不利益処分を行うのか、しっかりとした理由説明が求められるといえるでしょう。

また、利用規約はプラットフォーム運営にあたっての1つの手段であり、利用規約だけであらゆる問題に対応できるものでは当然ありません。

上記特集でも、 「利用規約だけの議論に拘泥するよりも、ユーザ対応を高度化していく方向で検討するほうが建設的であり、ユーザの満足度も上がり、プラットフォームの発展に資すると思われる」として、データ活用による不適切利用・不正行為を早期に発見するシステムの構築、チャットボット等でのクレーム処理の効率化を図るといった方法が提案されています[5]

4 まとめ

プラットフォームとして成長していくにつれ、悪質な行為を行うユーザーが増えていくことは避けがたいところです。サービスの健全性や良識のあるユーザーを守るために不正行為や不適切行為について厳正な対処が求められることは当然ですが、他方で透明性や説明責任も重要になってきます。恣意的な不利益処分ではなく正当かつ公正に行ったことを立証できるためにも、利用規約の文言をできるだけ平易で明確なものにし、かつ実際の運用面でも丁寧な対応が求められるところです。

弁護士 上村裕是


[1] タイトルは「小特集 利用規約をめぐる東京高判令和2・11・5の実務への影響を読み解く」

[2] それぞれのテーマと執筆者は以下の通り。

・松尾博憲「改正民法(定型約款)の視点から」

・増田朋記「消費者法実務の視点から」

・吉田昌平/小林直弥「消費者法実務(事業者側)の視点から」

・福岡真之介「プラットフォーム運営実務の視点から」

・大坪くるみ「事業者の法務の視点から」

[3] 35頁

[4] 38頁

[5] 36頁