利用規約の規定が消費者契約法違反とされるリスク(株式会社ディー・エヌ・エーに対する差止訴訟の判決を題材として)
ポイント
インターネット等で消費者向けのサービスを提供する場合、あまりに自社に有利な利用規約は、消費者契約法に違反して無効とされてしまうおそれがあります。合理的な根拠を説明できるように対応することが必要です。
1 前提‐利用規約と消費者契約について
不特定多数の消費者向けに商品を販売したりサービスを提供する場合、個別の契約ではなく利用規約を作成していることが多いでしょう。
どのような条項にするかは自由に決められるのが原則です(契約自由の原則)。
しかし、消費者向けのサービス(いわゆるBtoC)においては、消費者契約法という法律を遵守しなければなりません。過度に事業者側に有利な内容の条項は消費者契約法に違反して無効とされるリスクがあります。
モバゲーを運営する株式会社ディー・エヌ・エーが定める利用規約が消費者契約法に違反するとして、適格消費者団体から差止の請求がされた訴訟において、一審の地裁判決に引き続き二審の高裁判決でもディー・エヌ・エー敗訴(つまり消費者契約法違反が認められた)となりましたので、ご紹介します。
2 地裁判決と高裁判決
(1)地裁判決(さいたま地裁 令和2年2月5日)
さいたま地方裁判所は、モバゲーを運営する株式会社ディー・エヌ・エーが定める利用規約について、一部が消費者契約法に違反するとの判決を下しました。これは、「他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合」に、利用停止等の措置を取っても一切賠償の責任を負わないとする条項等が、消費者契約法に違反すると判断されたものです。
本件で問題となったのは、利用規約の以下の規定です。
7条(モバゲー会員規約の違反等について) 1項 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合,当社は,当社の定める期間,本サービスの利用を認めないこと,又は,モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし,この場合も当社が受領した料金を返還しません。 (中略) c 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が判断した場合 (中略) e その他,モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合 3項 当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても,当社は,一切損害を賠償しません。 12条(当社の責任) 4項 本規約において当社の責任について規定していない場合で,当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合,当社は,1万円を上限として賠償します。 |
7条3項と12条4項を合わせて読むと、7条3項に該当する場合(つまり7条1項のcやeに該当するとして利用停止等の措置をされた場合を含む)には、ディー・エヌ・エー側は一切損害賠償の責任を免れるように解釈できます。
このような7条3項の規定が、消費者契約法8条1項第1号・3号(消費者契約における事業者の債務不履行・不法行為による損害賠償義務を全部免除する条項)に該当して無効とされないかが争われました。
裁判所は、この7条3項は、同1項第 c 号又は第 e 号との関係において、その文言から読み取ることができる意味内容が著しく明確性を欠き契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められるといわざるを得ないこと等を理由に、免責条項として機能することになると認められるとした上で、7条3項が消費者契約法第8条第1項第1号及び第3号の各前段に該当すると結論付けました。
(2)高裁判決(東京高裁 令和2年11月5日)
上記地裁判決に対し、ディー・エヌ・エーが控訴しましたが、東京高裁は控訴を棄却し、地裁の判断を維持しました[1]。
地裁判決後、ディー・エヌ・エーは、「当社が判断した場合」という文言を「当社が合理的に判断した場合」という文言に変更したことで解釈が明確になった、合理的限定解釈は許される等の主張をしました。
しかし控訴審は、要旨、以下のような判断をし、その主張を退けました。
・「合理的に判断した」の意味内容は極めて不明瞭であり、最終的に訴訟において争われる場面では妥当だとしても消費者契約法の不当条項の解釈としては失当であること
・消費者契約法において、事業者は、契約条項の解釈にあたって疑義が生じない明確なものでかつ消費者に平易なものになるよう配慮すべき努力義務を負っており、事業者を救済する方向で限定解釈することは妥当でない
3 企業としての留意点‐説明責任・透明性の重要さ
一審判決後、ディー・エヌ・エーが「合理的に判断」という文言を加えたにもかかわらず、高裁は一審の判断を支持しました。
安定的な事業運営のために、事業者側に有利な定めをしておくことは必要なことです。特に、インターネット上でのサービスを展開する場合、悪質な行為に及ぶユーザーに対して機敏に対応できるように、事業者側の裁量を広く設定しておきたいところでしょう。しかし、一線を超えた有利すぎる規定にすると消費者契約法に違反するおそれの他、特にネット上で非難が強まり「炎上」してしまうリスクもあります。
今回の高裁判決は消費者にとっては有利である一方、事業者側にとっては厳しい判断となりました。特に、消費者契約法の趣旨から事業者を救済する方向で解釈することに否定的な判断を下したことの影響は大きく、現に消費者向けのサービスを展開している多くの事業でも利用規約の見直しが必要となりそうです。
一審の判決文からすると、ディー・エヌ・エー側は、一部のユーザーの利用を停止したにもかかわらず理由の説明もせず支払った利用料の返還もしないという相談が複数されていたという事情があったようです。これにより、ディー・エヌ・エーが自己に有利な解釈をする疑念を裁判所に抱かせたことがディー・エヌ・エーを敗訴させた1つのポイントであるように思われます。
事業者としては、利用停止等、ユーザーに対して厳しい対応を行う場合には、その合理的な理由を説明できるように説明できる体制を整えておくことが求められるといえるでしょう。これまで以上に、企業としての説明責任・透明性が必要かつ重要になっていると思われます。
弁護士 上村裕是
[1] 高裁判決の概要は、原告である「適格消費者団体 特定非営利活動法人埼玉消費者被害をなくす会」の資料に記載されています。
(http://saitama-higainakusukai.or.jp/topics/pdf/201109_01_01.pdf)
また、一審判決と二審判決の概要、主な争点、判示については消費者庁のニュースリリースで記載されています。
(埼玉消費者被害をなくす会と株式会社ディー・エヌ・エーとの間の訴訟に関する控訴審判決の確定について (caa.go.jp))