フリーランスに関する環境整備のガイドライン案について

1 はじめに

令和2年12月24日付で、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省の連名で、「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(案)が公表されており、その案に対する意見募集がされています。

「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(案)の策定に向けたご意見の募集について|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

事業者とフリーランスとの取引について、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関る法律、下請代金支払遅延等防止法、労働関係法令の適用関係を明らかにするとともに、これら法令に基づく問題行為を明確化するため、実効性があり、一覧性のあるガイドラインについて、内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省連名で策定すること

これから意見募集(いわゆるパブリックコメント)を行って、その意見を踏まえてガイドラインの内容が確定することになり、現時点ではあくまで案ですが、独占禁止法、下請法、労働法にわたって一元的に、フリーランスに関する法的保護のガイドラインが示されるという点で、その影響は大きいと思われるので、その概要をお伝えします。

2 概要

フリーランスについては、「実店舗がなく、雇人もいない自営業者や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者」と定義されています。

そして、フリーランスに適用される法律として、主に独占禁止法、下請法、労働関係法令が挙げられています。

(1)独占禁止法・下請法

フリーランスと発注元との契約では、発注元の力関係が強く、不合理・不公平な取引条件になりフリーランスとしてもそれを受け入れざるを得ないケースが珍しくありません。

しかし、そのような力関係を背景にした不合理な取引については、独占禁止法の「優越的な濫用」、あるいは下請法により規制されます。

①優越的地位の濫用規制

自己の取引上の地位がフリーランスに優越している発注事業者が、フリーランスに対し、その地位を利用して、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与えることは、「優越的地位の濫用」として独占禁止法により規制されることになります。

②下請法

取引の発注者が資本金1000万円超の法人の事業者であれば、相手方が個人の場合でも適用されることから、一定の事業者とフリーランス全般の取引に適用されることになります。

下請法が適用される場合、発注事業者がフリーランスに対して、下請事業者の役務等の提供内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面をフリーランスに交付しない場合には、下請法3条で定める親事業者の書面の交付義務違反となります。

③問題となる行為類型

ガイドライン案では、独占禁止法上・下請法上問題となる行為類型として以下のものを挙げて解説しています。

  1. 報酬の支払遅延
  2. 報酬の減額
  3. 著しく低い報酬の一方的な決定
  4. やり直しの要請
  5. 一方的な発注取消し
  6. 役務の成果物に係る権利の一方的な取扱い
  7. 役務の成果物の受領拒否
  8. 役務の成果物の返品
  9. 不要な商品又は役務の購入・利用強制
  10. 不当な経済上の利益の提供要請
  11. 合理的に必要な範囲を超えた秘密保持義務等の一方的な設定
  12. その他取引条件の一方的な設定・変更・実施

上記のうち、例えば、6の「役務の成果物に係る権利の一方的な取扱い」については、フリーランスが納品した成果物の権利(著作権等)について、一方的に作成の目的たる使用の範囲を超えて当該権利を発注者に譲渡させることといったことが、優越的地位の濫用として問題となり得る想定例として挙げられています[1]


[1] 下請法で禁止されている、不当な経済上の利益の提供要請にも該当し得ることになります。

イラストを作成して納めるといった取引において、このイラストに関する著作権を全て発注企業に譲渡してしまうと、フリーランスとしては自身が制作したにもかからず今後当該イラストを一切利用できなくなり、しかもそれに見合う適正な対価も得られないとすると、フリーランスの権利や立場は大きく損なわれることになります。このようなケースも、独占禁止法上の優越的地位の濫用規制や下請法の規制により救済される可能性があることになります。

(2)労働関係法

名目はフリーランスとして請負契約や準委任契約とされている場合であっても、実質的に発注事業者の指揮命令を受けていると判断されると、「雇用」に該当するとして、労働関係法令が適用されることになります。

雇用に該当して労働関係法令が適用されるとなると、発注元は契約解消についての解雇規制や時間外手当(残業代)の支払い義務を負うことになり、その負担は大きくなります。

「労働者」が問題となる場合、特に重要な判断基準は、使用従属性(他人の指揮命令下にあり、報酬がその指揮命令下の対価であること)があるかどうかです。

ガイドライン案では、この使用従属性について、次のような考慮要素を挙げています(18頁)。なお、これは、昭和60年12月19日付労働基準法研究報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)で示されたものです。

(1)「使用従属性」に関する判断基準
①「指揮命令下の労働」であること

a 仕事の依頼、業務指示の指示等に対する許否の自由の有無
b 業務遂行上の指揮監督の有無
c 拘束性の有無
d 代替性の有無(指揮監督関係を補強する要素)

②「報酬の労務対償性」があること

(2)「労働者性」の判断を補強する要素
①事業者性の有無
②専属性の程度

雇用とした場合の厳格な解雇規制や使用者の様々な負担を回避するため、名目は業務委託としながら、指揮命令下で労働させるといったケースはよくあります。

このようなケースであれば、名目はどうであれ、実態は雇用として労働関係法令が適用されることになります。

3 まとめ

上記で述べましたが、今回公表されたガイドラインはあくまで案ですので、パブリックコメントを経てその内容は修正される可能性があります。

また、ガイドラインの内容についても従来の解釈や運用をまとめたもので、全く新しい制度や概念が導入されたものではありません。

しかし、副業解禁の流れも相まって、近時、フリーランスの保護が大きな社会的な関心事になっており、これまで以上に取引の透明性や適性性・合理性が求められることになります。

仕事を行うフリーランスにとっては、不当・不合理な取引をされたときには、このガイドラインを参照することで是正や救済を求める手段を得ることが容易になります。

他方、フリーランスに業務を発注する企業としても、このガイドライン案を踏まえて対応することが重要です。特に、業務委託の名目でありながら実態は雇用となっていないか(指揮命令をしていないか)、取引条件は書面で明確化しているか、優越的な地位であることに乗じて不当な条件を押し付けていないかという視点で検討することが重要です。

今後、パブリックコメントを経てガイドラインがどのようになるのか、その動向に注視する必要があります。

弁護士 上村裕是