型取引の適正化について

1 型取引について

金型や木型等の「型」に関する取引(型取引)は、事業者間の取引でも多く見かけます。

しかし、受注者の多くが中小企業(零細企業含む)であり、発注者との力関係に大きな差があることもあり、不透明あるいは不適切な取引がされてしまいがちです。

産学官からなる「型取引の適正化推進協議会」が、業界ヒアリング等により実態把握を行い適正化に係る課題等について検討した結果が、令和元年12月に報告書としてまとめられています[1]。型取引を検討する上で大変有益な内容が含まれているので、簡単にご紹介します。

2 報告書の概要

(1)取引の類型

報告書は、取引類型を以下の3つのタイプに分類し、金型等の型に関する取引についての課題を明らかにしています(6頁)。

  • 類型A 型のみ又は部品と型の双方を取引対象とする取引
  • 類型B 取引の対象は部品であるものの、型についても、部品に付随する取引として型製作相当費の支払いや製作・保管等の事実上の指示を行う場合
  • 類型C 発注側企業が、型そのものを取引対象としないで、かつ、型に関して、型製作相当費の支払いや製作・保管等の指示を全く行わず、発注側企業の判断で型管理を行う場合

(2)課題と改善点

そして、報告書は型取引には次のような5つの課題があると指摘します(5頁)。

①型に関する取引条件の曖昧さ(型の所有権の帰属、支払方法、支払期日、検収内容等が不明確)

②受注側企業による資金繰り負担

③適正対価を伴わない受注側企業による型の長期保管

④型の廃棄・返却、保管費用項目の目安の不明確・不存在

⑤型の製作技術・ノウハウ流出

これらの課題ごとに改善点を提言しています。

例えば、①については、「型そのものを取引の対象とする場合」にはあらかじめ発注内容、型代金の支払方法、支払期日、型の貸与、廃棄、保管などについてできる限り具体的に定め、取引条件を書面化することが必要であるとされます(9頁)。

また、②については、型代金は、遅くとも型の引き渡しまでに一括払いなどにより支払いが終了していることが望ましいとされています(9頁)。

報告書の附属資料として、「型の取扱いに関する覚書」の書式も添付されており大変参考になります。

3 ポイント

型取引を行っている事業者は、互いに長年の取引が続いている関係であることも多く、書面化もなく口頭あるいは簡単な発注書だけで行われているところも多いと思われます。ただ、いったんトラブルとなった場合には、取引条件が曖昧で書面化もされていないと、自社の主張を貫くことが難しく不利になりかねません。

もちろん、全ての取引について、書面化する必要まであるかは費用対効果の関係で疑問でしょう。ただ、これまで実績がなかった新規顧客との取引や、従前よりも受注量が相当多い場合等は、念のため取引内容の書面化・明確化を行った方が望ましいでしょう。

その際には、この報告書に添付されている覚書をベースとして交渉していくことが考えられます。

弁護士 上村裕是

[1] https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191211002/20191211002.html