個人事業主が留意すべき契約条項と対応策について

2020年12月23日、玉造にあるハーティネスカフェさんで、主に個人事業主・フリーランスの方向けの法律のお話をさせていただきました。

今回主に取り上げたテーマは、個人事業主として契約書を取り交わす際に注意すべき条項です。

1 リスクのある契約条項

(1)典型的なケース

契約書レビューのご相談をお受けする際によく見かけるものとして、以下のような点があります。

①業務内容が不明確(何度もやり直しをさせられる)

 発注者・受注者間でやりとりが難しい場合、何度でもやり直しをさせられる危険性があります。業務内容はできるだけ詳細かつ具体的に記載することが望ましいです。

②成果物に関する権利をすべて相手方に譲渡する条項

 イラストを描いて納品するという契約の場合、イラストを製作した側に著作権が発生します。しかし、この製品のイラストに関する権利の一切を発注者側に譲渡するという条項を見かけます。そうなると、本来は著作権者として、様々な権利があったにもかかわらず、その権利がすべて相手方が吸い上げられ、しかも報酬がそれに見合わないということもあります。全てを譲渡するのではなく、ライセンスにするといった工夫が考えられます。

③相手方が自由に解除できる条項

 一定の期間の取引を想定していたにもかかわらず、相手方がいつでも無条件に(違約金支払いもなく)解除できるといった条項があります。相応の労力や手間、コストをつぎ込んでいたところで突然解除されてしまうリスクが大きいです。当方も解除ができるようにしておく、もしくは解除する場合でも一定の事由に限定するといった対応が求められます。

④こちらが解除しようとする場合に多額の違約金

 上記③とも関連しますが、途中で解除しようとしても多額の違約金を支払わなければならないといった条項があります。この場合、いったん契約を締結すると、解除は困難になってしまいます。

⑤損害賠償条項

 損害賠償を定める条項の中に調査費用や弁護士費用も含むことがあります。当方が支払う賠償額が相当多額になることが見込まれる場合には、上限を定める、あるいは賠償範囲に逸失利益を含まないといった対応が考えられます。

(2)ポイント

もちろん、契約は相手がいることなので、こちらの思惑通りに条項の削除や修正を実現できるわけではありません。こちらが強硬に修正を求めると、相手方との交渉が決裂して、契約自体ご破算となることもありえます。

検討の視点としては、取引の重要性と自身にとって許容範囲のリスクかどうか、相手方との力関係等を踏まえて、どこまで求めていくかを検討していくことになるでしょう。

2 下請法による救済

特に個人事業主やフリーランスが、比較的規模の大きい企業と取引を行う場合には下請法による救済という手段があります。

下請法は、下請取引の公正化・下請事業者の利益保護を目的とした法律で、以下の4類型の取引が適用範囲です。

  • 製造委託(他の事業者に物品の製造や加工等を委託)
  • 修理委託(物品の修理を請け負っている事業者が、その修理を他の事業者に委託するような場合)
  • 情報成果物作成委託(ソフトウェア等の提供・作成を行う事業者が他に事業者にその作成作業を委託する場合)
  • 役務提供委託(他社から運送やビルメンテナンス等のサービスの提供を請け負った事業者が、請け負った役務の提供を他の事業者に委託する場合)

これらの類型において、発注企業の資本金が1000万円超である場合、基本的に個人事業主との関係では下請法が適用されます。

発注者(親事業者)には、書面の交付義務や支払期日を定める義務等が定められています。また、発注者による受領拒否、下請代金の支払遅延・減額、返品、買いたたき、購入・利用強制等が禁止行為とされています。

違反行為があったとして下請事業者からの申立等がされると、公正取引委員会・中小企業庁において調査が行われ、違反が認められる場合には勧告や指導の対象となります。

下請法違反が疑われるケースでは、公正取引委員会や中小企業庁に相談するということも選択肢です。下請法の詳細は公正取引委員会の解説ページ(https://www.jftc.go.jp/shitauke/)をご覧ください。

弁護士 上村裕是