公正取引委員会の勧告に学ぶフリーランス法
1 はじめに
特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス法」といいます。)が2024年11月に施行され、もうすぐ2年になろうとしています。
フリーランス法は、①従業員を使用しない個人や、代表者以外に役員がなく、かつ従業員を使用しない法人(以下「フリーランス」といいます。)に②業務を委託する③事業者に適用されます(①②③の3つの要件を満たすかを考えれば、分かりやすいと思います)。
フリーランス法の施行から令和8年7月31日までの間に、フリーランス法違反として公正取引委員会が行った勧告で公表されているものは、合計18件です。
公正取引委員会の勧告という具体的な事例を見ながら、フリーランス法を学んでいきましょう。
2 令和8年2月27日:大手電力会社に対する勧告
⑴ フリーランス法の業務委託に該当する職種
公正取引委員会によると、この電力会社は、総務・広報、人事・労務、経理・法務、研究・開発、設備の管理・評価等に関する支援業務をフリーランスに委託していました。
フリーランスには弁護士や医師も含まれていたようです。
フリーランス法の業務委託に該当する職種には、建設業の一人親方、フードデリバリーサービスにおける配達員、弁護士等の士業、アフィリエイター、作曲者や演奏者、歌手や俳優が含まれます。
事務員等を雇用していない弁護士等の士業にもフリーランス法が適用されることは見落としやすいポイントなので、注意する必要があります。
⑵ フリーランス法違反その1
フリーランスに対し業務委託した場合は、直ちに、給付の内容、報酬の額、支払期日その他の事項を、書面又は電磁的方法によりフリーランスに対し明示しなければなりませんが、「その内容が定められないことにつき正当な理由がある」ものは明示を要しません(フリーランス法3条1項)。しかし、未定事項がある場合、未定事項の内容が定められない理由と未定事項の内容を定めることとなる予定期日について当初の明示をする必要があります(公正取引委員会規則1条1項12号)
この電力会社は、フリーランスとの契約を締結した時点で、業務委託の日時や場所が未定だったため明示せず、決定次第通知すると定めていたようです。しかし、業務委託の日時や場所が定められない理由と、それらを定めることとなる予定期日について当初の明示をしていなかったことが、フリーランス法違反に当たると判断されたようです。
この当初の明示をしなければならないことは見落としやすいポイントなので、注意する必要があります。
なお、未定事項の内容が定められた後直ちに、当該事項について補充の明示をしなければなりません(フリーランス法3条1項)。この補充の明示は、当初の明示と相互の関連性が確認できるようにする必要があります(公正取引委員会規則1条4項)。
⑶ フリーランス法違反その2
報酬の支払期日が定められなかったときは役務の提供を受けた日が報酬の支払期日と定められたものとみなされます(フリーランス法4条2項)。
この電力会社は、フリーランスに対し業務を委託した際、報酬の支払期日を定めておらず、フリーランスから役務の提供を受けた日までに報酬を支払わなかったことが、フリーランス法違反と判断されました。
また、報酬の支払期日は具体的な日を特定できるように定める必要があり、具体的な日を定めていない場合も支払期日を定めていないものとみなされます。この場合も即日払いになってしまいますので、注意が必要です。
例えば、「〇月〇日支払」や「毎月末日締切、翌月末日支払」は具体的な日を特定できるのですが、「〇月〇日まで」や「納品後〇日以内」は支払の期限を示したもので、具体的な日が特定できないので、報酬の支払期日を定めていないと判断されてしまいます。「〇月〇日まで」や「納品後〇日以内」と定めている企業も多いと思いますので、この点も見落としやすいポイントになります。
⑷ フリーランス法違反その3
報酬の支払期日は、役務の提供を受けた日から起算して60日の期間内において定められなければなりません(フリーランス法4条1項)。
これに違反して報酬の支払期日が定められた場合、役務の提供を受けた日から起算して60日を経過する日が報酬の支払期日と定められたものとみなされます(フリーランス法4条2項)。
この電力会社は、フリーランスに対し業務を委託した際、フリーランスから役務の提供を受けた日から起算して60日を超えて報酬の支払期日を定め、フリーランスから役務の提供を受けた日から起算して60日を経過する日までに報酬を支払わなかったことが、フリーランス法違反と判断されました。
3 令和8年3月31日:地域放送局に対する勧告
地域放送局は、報酬をフリーランスの銀行口座に振り込む際の手数料をフリーランスの負担とすることを書面又は電磁的方法で合意することなく、フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額から手数料を差し引いたことが、フリーランス法違反と判断されました。
フリーランスの責めに帰すべき事由がないのに報酬を減額することは、禁止されています(フリーランス法5条1項2号)。本件では、報酬から振込手数料を差し引くことが報酬の減額に当たると判断されたことになります。
① 業務委託前に、書面又は電磁的方法で、振込手数料をフリーランスが負担することについて合意しており、②金融機関に支払う実費の範囲内で当該手数料を差し引いて報酬を支払う場合は報酬の減額には該当しませんが、この地域放送局は、①銀行口座に振り込む際の手数料をフリーランスの負担とすることを書面又は電磁的方法で合意していなかったため、フリーランス法違反と判断されたことになります。
報酬から振込手数料を差し引くことも、報酬の減額に当たると判断されかねないことは、見落としやすいポイントなので、注意が必要です。
4 令和8年6月24日:家電量販店に対する勧告
この家電量販店は、エアコンの設置工事をフリーランスに委託していたところ、フリーランスの報酬の額について、エアコンの設置工事にかかるコスト上昇分を報酬の額に反映させる必要性についてフリーランスと十分な協議を行うことなく、一方的に従来どおりに報酬の額を定めたことが、フリーランス法違反と判断されました。
フリーランスの給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価(市価)より著しく低い報酬の額を不当に定めること(買いたたき)は禁止されています(フリーランス法5条1項4号)。
買いたたきに当たるかどうかは、①報酬の額の決定に当たり、フリーランスと十分な協議が行われたかどうかなど対価の決定方法、②差別的であるかどうかなど対価の決定内容、③「通常支払われる対価」と当該給付に支払われる対価との乖離、④当該給付に必要な原材料等の価格動向を考慮して総合的に判断することになります。
例えば、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコスト上昇分の取引価格への反映の必要性について、価格の交渉の場において明示的に協議することなく、従来どおりに報酬を据え置くことは買いたたきに当たります。
コスト増の場合はフリーランスとの十分な協議が必要であることは見落としやすいポイントなので、注意が必要です。
5 令和7年6月25日:楽器会社に対する勧告
⑴ フリーランス法違反その1
この楽器会社は、自らが運営する音楽教室において行う体験レッスンをフリーランスに無償で行わせていたことが、フリーランス法違反と判断されました。
「自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること」によってフリーランスの利益を不当に害することは禁止されています(フリーランス法5条2項1号)。
「経済上の利益」には作業への労務の提供も含まれます。
また、業務委託を受けた物品の販売促進につながるなど「直接の利益」になるものとして自由な意思により経済上の利益を提供する場合はフリーランスの利益を不当に害しませんが、将来の取引が有利になるというような間接的な利益ではリーランスの利益を不当に害しないとはいえません。
このように、禁止の範囲が一般的な感覚より広く、見落としやすいポイントなので、注意が必要です。
⑵ フリーランス法違反その2
この楽器会社は、フリーランスへの報酬の支払期日を「毎月末日締切、翌々月10日支払」として、フリーランスから役務の提供を受けた日から起算して60日を超える期日に定めており、フリーランスに対し当該期日に報酬を支払ったことが、フリーランス法に違反すると判断されました。
2⑷で述べたとおり、報酬の支払期日は役務の提供を受けた日から起算して60日の期間内において定められなければならず、これに違反した場合は役務の提供を受けた日から起算して60日を経過する日が報酬の支払期日と定められたものとみなされます。
例えば、「毎月末日締切、翌月末日支払」は、その月のどの日に役務の提供を受けたとしても、報酬の支払期日はその日から60日以内となるので問題ないのですが、「毎月末日締切、翌々月末日支払」は、役務の提供を受けた日によっては、報酬の支払期日がその日から60日を超えるため、フリーランス法に違反することになります。「毎月末日締切、翌々月末日支払」と定めている企業も多いと思いますので、この点も見落としやすいポイントになります。
※本記事は、一般的な法律情報の提供を目的としたものであり、個別の事案に対する法的助言を行うものではありません。また、掲載内容は執筆時点の法令・勧告等に基づくものであり、最新かつ正確な情報であることを保証するものではありません。個別の法律問題については、具体的な事情を踏まえて弁護士にご相談ください。
