保険金の手続代行に注意!詐欺に加担してしまうリスクも
1 はじめに
地震や台風といった災害によって自宅が深刻な被害を受けてしまった場合、一刻も早く補修を行い元の生活に戻りたいと思うのが当然でしょう。
しかし、そのような非常時に不安や心理につけこんでずさんな工事をしたり不正な保険金請求の代行をする業者がいることは事実で、注意が必要です。
2 被災住宅をめぐる悪質業者の手口
国民生活センターが、「保険金を使って自己負担なく住宅修理ができる」と勧誘されてもすぐに契約しないようにしましょう!-勧誘・契約が増える秋台風シーズンは特に注意してください-」という注意喚起をHPで行っています[1]。この記事によると、「火災保険を使って自己負担なく住宅の修理ができる」など、「保険金が使える」と勧誘する住宅修理サービスに関する相談が多く寄せられていること、事業者による勧誘・契約は10月前後の秋台風シーズンに増加する傾向があり、この時期は特に注意が必要であること等が述べられています。
同記事では、次のような問題点が指摘されています。
- 「保険金が使える」と訪問販売で契約しており、長時間勧誘も行われている
- 高額な手数料等が発生することの説明が不十分
- 保険会社をだますような手口の保険金請求が行われている
- 見積りが杜撰で保険金が支払われなかったり、工事内容が杜撰なことも
いずれの問題点も重大なのですが、とりわけ深刻なのが3です。
実際は別の原因で損傷したのに災害で損傷したと偽るといった不正な保険金請求は詐欺になる可能性が高いです。しかも、悪質業者が行うのはあくまで手続の「代行」に過ぎず、実際の保険金請求は契約者本人の名前で行う以上、不正請求をしてしまうと、契約者自身が詐欺を行ったとして刑事上の責任を問われかねません。当然、不正が発覚すると保険金請求もできませんし、今後新たな保険契約をしたり保険金請求をするにあたって大きな支障にもなり得ます、
更に上記2や4にあるように、保険金請求にあたって高額な手数料を支払わされたり、工事内容が杜撰で補修が十分できていないことも重なると、災害により被害を受けたにもかかわらず、更に業者による被害を被った上に、不正に加担したことにもなりかねないという極めて悲惨な状況に陥ってしまいます。
災害による被害という非常時であるがゆえに、うまい話をもちかけてくる業者につい頼みたくなってしまいますが、自身の大切な建物を守り、トラブルを避けるためにも、悪質な業者には決して依頼してはなりません。
3 悪質業者に騙されないための注意点
それでは、このような悪質業者に騙されないためには、どのような点に注意が必要でしょうか。
「被災建物の保険 請求トラブル増」という2021年3月16日付日経新聞の記事によると、悪質業者を見極めるポイントとして、①契約書を交わさない、②修理業者を指定する、③見積書に損傷の範囲を明示しない等が指摘されています。[2]
特に注意が必要なのは、メリットばかり強調して、契約を急がせる業者でしょう。
上記でも述べましたが、非常時であるからこそ、急いで契約することは避け、場合によっては別の業者にも見積もりを依頼する等の慎重な対応が必要です。
保険金や給付金、補助金の申請を「代行」するともちかけ、高額な手数料を要求する悪質な業者が後を絶ちません。最近では、新型コロナウイルス関係での持続化給付金をめぐって、受給要件を満たすために書類改ざんを行って申請するという事例も見られます。このような業者に安易に依頼すると違法行為に加担したとして民事・刑事上の責任を問われてしまいかねませんので、よくよく注意をしておく必要があります。
弁護士 上村裕是
[1] http://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20201001_1.html
[2] https://www.nikkei.com/article/DGKKZO70001570V10C21A3CC1000/