【上村裕是のBlog】診療ガイドラインについての講演を聞いて
先月15日,大阪弁護士会の研修の一環で,京都大学大学院医学研究科教授の中山健夫先生をお呼びして診療ガイドラインについて講演していただく機会があったので,出席してきました。
中山先生は長年あるべきガイドラインについて研究されている方であるだけに,大変有意義なものでした。
いくつか印象に残ったものでいうと,まず医療現場においてはEBM(Evidence-based medicine)が過度に強調された時期があったが,結局,EBMというのはあくまで統計に基づく一般論であり(統計的に見て,この症例については薬Aより薬Bの方が治療効果が高いといったもの),常に例外はあること(統計的には薬Bを使用した方が治療効果が高いが,その患者には効果がなかったという場合や薬Aの方が効果があった場合等),その患者の年齢・既往等の個別事情を考慮することが不可欠であるということです。
また,エビデンスがない(すなわち,その治療法を行うことで効果が得られるかについて統計的な根拠がない)ケースも多くあり,そのような場合においては,臨床医は自己の経験や知識を総動員してその症例において最適な方法が何かを考えて治療にあたるということです。
医療事件では,過失の判断にあたって診療ガイドラインは重要な役割を占めており,裁判所も重視する傾向にあります。ただし,診療ガイドラインで記載されている内容といっても,結局一般論を示しているものなので,「ガイドラインに従わなかったこと=過失」,「ガイドラインに従ったこと=過失なし」といった単純な図式ではなく,ガイドラインで示されている一般論とその担当医の経験や知識という両者を駆使し,かつ,患者の価値観や希望も踏まえて治療方針を決めていくことが大事であることを改めて教えていただきました。