令和3年改正プロバイダ責任制限法

1 はじめに
令和3年4月21日、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(=プロバイダ責任制限法)の一部を改正する法律」が成立しました。
施行日は、公布の日(同年4月28日)から1年6月を超えない範囲で定められますので、令和4年10月頃には新法が施行されることになります。

2 現行法における2度の手続
現行法の下では、以下の2度の裁判手続が必要でしたが、新法は「発信者情報開示命令」という制度を作り、一度の非訟手続で発信者情報の開示ができるようになりました。
①コンテンツプロバイダに対する仮処分手続
→IPアドレスの開示請求
コンテンツプロバイダの例:Twitter、Facebook…
②アクセスプロバイダに対する訴訟手続
→住所・氏名の開示請求
アクセスプロバイダの例:ソフトバンク、ビッグローブ…

3 新法における手続
新法下において、被害者は以下の2つの事件を同じ地方裁判所に申立て、両事件が併合されて審理されることになります。
①コンテンツプロバイダに対する発信者情報開示命令申立事件
→CPに対する発信者情報開示の仮処分に対応。
②アクセスプロバイダに対する発信者情報開示命令申立事件
→APに対する発信者情報開示請求訴訟に対応。

4 管轄
開示命令申立事件の裁判管轄は、「相手方の主たる事業所又は営業所」の所在地を管轄する裁判所とされています(10条1項3号)。
ここでいう「相手方」とは、コンテンツプロバイダを指すことになると思われます。
また、管轄権を有する裁判所が東日本であれば東京地方裁判所、西日本であれば大阪地方裁判所にも申立てが可能となりました(10条3項)。
東京地裁や大阪地裁はWEB会議システムを積極的に導入している裁判所であり、「発信者情報開示命令事件」にもWEB会議システムが利用される可能性があります。

5 発信者情報開示命令事件のフロー
新法による手続の流れは以下のようになります。
本案として、コンテンツプロバイダ(=CP)に対する開示命令、アクセスプロバイダ(=AP)に対する開示命令があり、それに付随するものとして、提供命令、消去禁止命令があります。
提供命令は、「CPは申立人にAPの名称を通知せよ」との裁判所の命令です。これによりAPが判明するため、申立人は当該APに対する開示命令の申立てを行います。
消去禁止命令は、「APはアクセスログを消去してはならない」との裁判所の命令であり、現行法におけるログ保存仮処分に対応するものです。

①申立人がCPを相手方とする開示命令の申立てをする(8条)
②申立人が①を本案とするCPに対する提供命令の申立てをする(15条1項1号)
③裁判所が提供命令を発令し、CPから申立人にAPの名称が提供される(同号イ)
④申立人がAPを相手方とする開示命令の申立てをする(8条)
⑤申立人がCPに④の申立てをしたことを通知する(15条1項2号)
⑥CPがAPにIPアドレスを提供する(同号)
⑦申立人が④を本案とするアクセスログの消去禁止命令の申立てをする(16条1項)
⑧裁判所が開示命令を発令し、申立人に発信者の住所・氏名が開示される(8条)

6 結語
新法の「発信者情報開示命令」の手続を利用すれば、従来の「CPに対する仮処分+APに対する訴訟」よりも大幅に短い期間で発信者の住所氏名が開示されることが予想されます。
コスト面でも仮処分の担保金が不要となったり、2度の裁判手続を行う場合より弁護士費用の負担が軽減されるなどコストの低下が期待できます。
裁判所の運用により、書面審理やWEB会議(電話)による審理が行われるようになれば、裁判所への出頭の負担が軽減され、地方に住む被害者にとっても利用しやすい制度となるかもしれません。
なお、削除請求については、今回の改正では組み込まれなかったため、従来通り仮処分等の手続を行う必要があります。

                          弁護士 福本 隆寛