従業員がブログにて顧客のプライバシーを侵害したケースで企業の損害賠償が認められた判決
自社従業員が顧客のプライバシー・個人情報をインターネット上で公開する等した場合、自社も損害賠償責任を負うリスクがありますので、従業員に対する適切な指導・監督が求められます
はじめに
個人情報・プライバシーの保護の重要性は近年ますます増してきています。
顧客と接点を持つ従業員が、その職務で知ったプライバシー情報を自身のブログに公表して、顧客から当該従業員だけでなく企業もプライバシー侵害を理由に損害賠償請求をされたというケースで、いずれへの損害賠償も認められたという判決がありますので(東京地方裁判所平成27年9月4日判決)、紹介します。
平成27年9月4日東京地裁判決の概要
(1)当事者及び事案の概要
原告(X) 脚本家・映画監督
被告1(Y1) Y2の従業員
被告2(Y2) 訪問介護サービス等の事業を行う会社
・Y1が、Y2の訪問介護員としてXの自宅に何度か赴き、そこでXの病状や私生活上の行動についての情報を得る
・Y1、Xが認知症にり患していることや日常動作の1人でこなすことができないこと等のXの私生活上の様子を自身のブログで公表
・Y2は、Y1に対し、利用者等のプライバシーや名誉を侵害してはならないことについて研修を行った形跡はなかった
(2)裁判所の判断
(Y1の責任) 慰謝料150万円の賠償義務
Y1がブログで公表した上記事実は、一般人にいまだ知られておらず、また一般人の立場からして公開を欲しないものであり、ブログでの公表はプライバシー侵害にあたり、民事上の不法行為となる(またこれはXの社会的評価を低下させるもので名誉毀損にあたる)。慰謝料150万円を支払う義務がある。
(Y2の責任) 慰謝料130万円の賠償義務
Y1のブログでの公表行為は、Y2の事業の執行を契機としてなされたものと密接関連性を有するもので、事業の執行についてなされたものである(ただし、退職後のブログでの公表については、Y2の事業の執行についてなされたとはいえない)。
Y2は訪問介護事業者として、その従業員の選任・監督にあたっては、利用者のプライバシーや名誉を侵害することのないよう従業員を十分に指導監督する義務があった。にもかかわらず、そのような指導監督をしなかった。Y1が在職中のブログ投稿については使用者責任に基づく損害賠償義務を負う。
他方Y1の退職後のブログ投稿については、Y2の事業の執行について行われたものとはいえず使用者責任は負わないものの、Xとの間の秘密保持義務に違反したという債務不履行がある。
Y2は慰謝料として合計130万円を支払う義務がある。
本判決を踏まえた対応‐従業員に対するプライバシー・秘密保持の指導監督の必要性
本判決が特徴的なのは、従業員が職務上知り得たプライバシー情報について、会社の業務としてではなく、業務時間外に私的なブログに投稿したという点です。
ブログやSNSといった従業員の私的な活動・行動について、企業は介入・干渉できないのが原則です。現に、Y2も訴訟の中で、従業員の私的な時間におけるブログの書込み行為まで制御することはできない旨主張していました。
しかし、本判決は、
①訪問介護事業が利用者の私的領域である自宅にて介護を行う以上必然的に利用者のプライバシー等に触れること
②近年では個人がインターネット上に情報発信を行うことが容易にできる状況にあること
等の点を踏まえ、事業者として、従業員に対しては利用者のプライバシーや名誉を侵害することがないよう十分に指導監督すべきであるのに怠ったとして、Y2の責任を認めました。
Y2において、「Y1に対して利用者等のプライバシーや名誉を侵害してはならないことについて研修を行った形跡はなかった」という事情が重視されたものと思われます。
訪問介護事業者に限らず、顧客のプライバシー情報に触れる業種は数多くあります。職務において顧客とかかわる従業員が、顧客が有名人であったり刺激的な体験をしたような場合に深く考えずにブログやSNS等に投稿してしまい、その結果、自社も損害賠償責任を負う可能性があります。
自社従業員によるそのような行為は、プライバシー侵害による損害賠償のみならず、顧客との契約解除、更には業務上の信用失墜にもつながりかねない極めて重大なリスクとなりえます。
会社として、従業員の私的な行為について100%制御することは当然不可能ではありますが、上記のリスクを極力回避あるいは軽減するためには、以下のような対策をとられたほうがいいかもしれません。
1 採用時に、職務上知り得た顧客の秘密やプライバシーを侵害しないことを明記した誓約書に署名捺印してもらう 2 上記1の秘密・プライバシー侵害を就業規則の懲戒事由に加える 3 定期的に研修等で秘密・プライバシー保護の重要性やSNS等へのアップが厳禁である旨を従業員に周知する |
弁護士 上村裕是