平成30年著作権法改正によって可能になるサービス

1 はじめに
 平成30年5月18日、第196回国会において提出されていた「著作権法の一部を改正する法律案」が成立しました。この改正によって、デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定(30条の4、47条の4、47条の5関係)の整備が行われ、平成31年1月1日に施行されました。本稿では、企業法務に与える影響が大きいと考えられる改正法30条の4及び同47条の5に絞って解説します。

2 改正法30条の4について
ア 条文構造
 改正法30条の4は、柱書において、「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に、著作物の利用を認めています。そのうえで、1号~3号において、著作物を利用できる場合を例示列挙しています。

 柱書 
 1号 技術開発・実用化のための試験(改正前30条の4が元)
 2号 情報解析(改正前47条の7が元)
 3号 人の知覚による認識を伴わないPC利用(新設) 

イ 可能となるサービス
 1号は、「著作物の録音、録画その他の利用に係る技術開発又は実用化のための試験への利用」を認めています。これにより、テレビの録画技術を検証するためにテレビ番組を録画するといった行為が可能です。もっとも、この行為は改正前30条の4においても許容されていました。
 2号は、「情報解析の用に供する場合」に著作物の利用を認めています。これにより、ディープラーニング によるAI開発のための学習用データとして著作物をデータベースに記録することが可能になります。例えば、ジブリ映画の特徴を解析してジブリ風の映画を生成するAIを開発するために、ジブリ映画をPCに取り込むことができます。また、機械翻訳システムの開発のために文献等をPCに読み込ませる行為も可能になると考えられます。
 3号は、「著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程」において著作物の利用を認めています。これにより、人の認識を伴わないシステムのバックエンドでの著作物の利用が可能となります。
 さらに、1号から3号に該当しない場合でも、柱書により、プログラムの調査解析を目的とするプログラムの著作物の利用(リバースエンジニアリング)が可能になります。

ウ サービスを提供する際の注意点
 具体的なサービスを提供するにあたっては、本当に「享受」の目的がないといえるかどうかを慎重に判断することが必要です。「享受」の目的の有無の判断にあたっては、行為者の主観に関する主張のみが考慮されるわけではなく、実際の利用行為の態様や経緯などの客観的、外形的な状況も含めて総合的に考慮されるといわれています。したがって、大勢の一般人を招待して映画の試験上映会を開催した場合に、いくら人を感動させるような映像表現技術の開発が目的だと主張しても、享受の目的がないとはいえないことになります。この例では、客観的にみれば「享受」の目的がないとは評価できないからです。

3 改正法47条の5
ア 条文構造
 改正法47条の5は、1項において、電子計算機による情報処理により新たな知見や情報を提供するサービス(所在検索サービス等)について、その結果の提供の際、著作物の一部を軽微な形で提供できることにするとともに、2項において、当該行為の準備のために複製等を行うことができることとしました。

 1項 1号 所在検索サービス(改正前47条の6が元)
    2号 情報解析サービス(新設)
    3号 その他新規サービス(新設)
 2項 所在検索サービス等の準備(新設)

イ 可能となるサービス
 1号は、電子計算機を用いて、「検索情報の特定又は所在に関する情報を検索し、及びその結果を提供する」場合に著作物の利用を認めています。これにより、「書籍検索サービス」(本の本文等の特定のキーワードを検索し、その書誌情報とあわせて文章の一部を提供するサービス)や「街中風景検索サービス」(風景(看板等)を検索することで、所在地の看板・店舗情報を提供するサービス)が可能となります。
 2号は、「電子計算機による情報解析を行い、及びその結果を提供する」場合に著作物の利用を認めています。これにより、「論文剽窃サービス」(論文や書籍をデジタル化して検索可能としたうえで、検証したい論文について、剽窃の有無やオリジナル論文等の一部分を表示するサービス)や「医療支援サービス」(過去の症例、治療方法、薬効等に関する情報から最適な治療方法を提案する際に、文献等の一部分を提供するサービス)が可能となります。

ウ サービスを行う際の注意点
 各サービスは、「軽微利用」(改正法47条の5第1項柱書)にとどまるものでなければなりません。軽微利用とは、「著作物のうちその利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なもの」と定められています。しかし、裁判例の蓄積がない施行直後の段階では、軽微利用に該当するかどうかの判断が難しい場合も多いと考えられます。
 さらに、上記の行為を行う者は、「政令で定める基準に従つて行う者に限る」(改正法47条の5第1項柱書)とされています。具体的には、「要件の解釈を記載した書類の閲覧、学識経験者に対する相談その他の必要な取組を行うこと」(施行令7条の4第1項3号、施行規則4条の5第1号)等が求められています。

 弁護士 福本 隆寛